北名古屋市における公共施設の維持管理運営の見直しは、平成21年10月に策定された行財政改革行動計画の5つの重点項目に「公共施設管理運営の見直し」と示したことを初出として、平成24年3月に「公共施設の管理運営の見直し計画」を策定し、個別施設の統廃合の基本的方針と時期について言及している。この見直し計画で示された項目の予定年度からは年単位で遅れつつも部分的に推進され、また計画期間終了後の平成28年3月にはこの見直し計画を受け継ぐ形で新たに「北名古屋市公共施設等総合管理計画」を策定された。
この公共施設等総合管理計画においては、北名古屋市が公共施設の適正な配置について、施設の現状と市の財政面などの課題を住民に示すことができるように、その根拠となるエビデンスを作成し、丁寧な説明をするための努力をされていることが非常によくわかる。
たとえば、数値を明確にしていることだ。今後の40年間で192億円分の削減(1年あたり4.8億円の削減)が必要であるという数値を明確にしてきたこと、北名古屋市人口ビジョンに示された人口の将来展望の推移のグラフを示したこと、また合併後の普通会計における投資的経費・義務的経費・維持補修費の決算額の推移のグラフや土木費の決算額推移もここに示されている。こうした資料によって、公共施設の利用者の将来的な増減への意識を向けられ、ひいては公共施設の維持管理にかかるコストを意識した住民の議論が可能になるために非常に重要な資料である。
しかしながら議会へ上程されてくる議案は、当初の平成24年の見直し計画として策定した予定より過分に遅延しており、また合併特例債が活用できる期限と発行額の上限が迫っている。また交付税についても合併算定から一本算定に段階的に減額されており、平成27年度と比較して平成33年度には6億7千万円の減額となる予定だ。誰の目からみても公共施設の統廃合の早期実現を達成することが市の財政バランスを維持するうえで最も重要な取り組みでありながら、このような遅延が引き起こされているのはなぜだろうか。その原因について考えてみると、行政と住民との間での議論が進んでいない点に思い当たった。
公共施設等総合管理計画に書かれた統廃合の予定について、わたしは地域住民からの賛否それぞれの意見を耳にしたことがない。廃止しますよ、というアナウンスがあってやっと耳にする。そのような状況が示すことはすなわち、行政の計画が広く市民には知られていない、ということだと考える。
さて前置きが長くなりましたが、住民と行政との間での公共施設に関する住民との課題共有の良好な事例を求め、盛岡市の「公共施設保有の最適化と長寿命化計画」を視察先として選定して視察を行ってきたので報告します。
「市民にも一緒に悩んでもらう」盛岡市の公共施設アセットマネジメント
については、維持更新費用の増大が年平均100億円をこえ、これまでの費用(年平均49億円)の2倍以上が必要となる見通しだそうです。少子高齢の到来は地方の景気低迷に追い打ちをかけるかの如く、ピーク時と比べて年少人口が6割減、生産年齢人口が3割減という一方、65歳以上の人口が増加する見込みである。そのため老人福祉や生活保護などのための費用が著しく増加し、財政の硬直化が進んでいるところです。
アセットマネジメントはこのような状況の入り口となる平成21年度に「自治体経営の指針及び実施計画の策定」を機にスタートしています。以来、公共施設の配置の在り方の検討、維持管理手法の具体化を行うこととして定められ、平成23年度に岩手県立大学盛岡市まちづくり研究所での調査研究の結果、長寿命化と総量縮小の提言を受けました。「総量縮小」というインパクト・ワードが入れられたことがこの後の方針策定に大きく影響することになった、と説明員の上森氏は述懐されました。
平成25年度には基本方針の策定をされ、それ以降、市民討議会の開催、施設カルテの公表、有識者会議を経て、平成26年度に「公共施設保有最適化・長寿命化長期計画」を策定されます。この期間は住民理解を得るための準備・助走期間として、具体的方針を作るためまた抽象的議論から脱却し市民全体で一緒に問題を考えるための材料づくりを行い、つぎの計画で個別施設へ言及するための全体合意の形成を意図的に進められた点が非常に巧みだったといえます。
そして平成27年度に初めて個別施設への言及を開始します。市内30地区で長期計画の説明と中期計画などを策定するための意見交換会を細かい地域で順に開催しました。その際に、施設配置図や施設カルテデータを資料配布し、「市民にも一緒に悩んでもらう」ことで、行政の計画趣旨や長期計画策定の取り組みに対して、ほとんどの住民からの理解を得ることができています。また予定時刻を過ぎても意見が出ているのであればとことん付き合ってきたこと、意見交換会以外の日でも市民からの意見に耳を傾けるよう足を運んだことなど、住民説明にはとてつもなく大きなマンパワーを割くことを覚悟し、徹底的に住民に寄り添ったことが大きなポイントだと思われます。
盛岡市のアセットマネジメントに関するウェブサイトを見ると、計画の進んできた経緯が時系列順に並び非常にわかりやすく、また途中途中で住民意見を丁寧に確認してきたことが見て取れます。平成27年度になってようやく公共施設保有最適化・長寿命化中期計画(案)を公表しますが、この時点ですでに、住民自身が行政と一体となって課題を共有してくれています。これは計画推進する行政マンにとって、大きな安心感と後押しになるのではないかと考えます。またそうやって課題を共有してくれているという安心感もあるので、この案の説明会で個別施設の統廃合といったナイーブな問題についても、相互に信頼感が醸成されていたのではないかと推察します。またこのなかで反対意見も出てきたそうですが、パブリックコメント実施ののち、中期計画(案)に対して修正を加え、中期計画と実施計画を策定したとのことでした。行政が出した案について、住民の意見によって施設の統廃合の方針に変更を加えることはまず普通には考えにくいことですが、盛岡市でそのような変更を実施したことができたのも、行政と住民との相互信頼関係ができるまで、とことん丁寧に計画を運んできたからではないでしょうか。
さて今後、盛岡市では官民連携(PPP/PFI)での公共施設マネジメント推進を計画されています。もりおかPPPプラットフォーム、と名付けられたこの取り組みは、事業案件の形成に向けた検討・準備の場として、すでに斎場・合同庁舎・消防署がDBO方式【資金調達が伴わないPFI手法】で整備されていますが、今後さらに学校給食センターやバスセンター、野球場、動物公園などに展開を検討されているそうです。長期間の管理運営コストを低減させる取り組みは北名古屋市でも喫緊の課題です。施設によってはこのようなPPP手法の活用も視野に入れた公共施設の見直しを期待しています。
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